*目の前の虹*

大切な本を注文して、家に届いた日 

天気雨が降った。 

パラパラと。 

その本を買うのは三度目だ。 

大切な本だから、これぞという誰かにある日思い立って送ってしまったり、改めて買ってもそのまま贈り物にしてしまったりして、僕の手元には無かった。 

僕も持とう、と決めて、Amazonで注文したのだ。 

そして今、僕はその本を持っていた。  

本当に、さっき、届いたのだ。サラサラ、きらきら、パラパラ 、青空から雨が降る。

玄関の樹々たちだって、うれしそうに空を見上げているように思った。 

ボンネットや葉に雨があたる。ぱらぱら。ばばば。シャンララ。

たいくつを弾き飛ばすように、一斉に走り出すように、でもここで、響く。 


最近、絵を描いていることもあって、「天気雨は何色だろう」とふと思った。 

目の前の雨粒を眺める。すぎさる雨粒の凝視。 

うんと見る。 

雨粒の中に、まわりの景色・色彩が反響して、小さく小さく色を作っていた。 

これは何色だろう 

白はない。ひとつもない。反射の光じゃない。 

(虹のようだ) 

そう思ったとき、降りしきる雨粒が連なって 

目の前に小さな虹ができた。 

誰にも見えない、僕だけの目の前で。 

僕だけに語りかけるように。 

僕を讃えるように。 

僕と遊ぶように。 

僕に笑いかけるように。 

僕を抱えて、どこか素敵な場所へ走りさろうとするように。 

そんな少しドキッとする驚かしのように。 

でもそれは本当のことが混じっているから、本当に嬉しくドキンとするのだけど。 


結局は連れていかないのだけれど。 

でも、「思ってるよ、本当に思っているからな」と、たしかに僕だけを染めあげるように。


目の前の虹


この本を書いた人のことを思った 

その人の今を思った 

その人の傷を思った



雨があがって、僕は家の玄関で、最初のページをひらいた。 

慎重に。ゆっくり。こわれないように。 

真っ白なページが輝いてとびこんできた 

やっぱり、そうなのだ、と思った 

この本は、あの人は、誰にも管理されない、自由な、何かなのだ、と。